― 人が育つ職場は“教える仕組み”を持っている ―
「見て覚えろ」「技は盗むものだ」。
昔ながらの職人文化では、こうした指導が当たり前だった。
私もこれまで、
・丁寧に教えてくれる職場
・“見て覚えろ”が前提の職場
の両方を経験してきた。
その中で強く感じたのは、
「見て覚えろ文化」は、現代の仕事と相性が悪いということ。
そして最近の研究でも、
体系的に教えるほうが習得が圧倒的に速い
というデータが示されている。
ここでは、見て覚えろ文化の背景と、
現代の職場とのズレについてまとめてみたい。
1. 「見て覚えろ文化」はどんな職場で生まれたのか
見て覚えろ文化は、主に 高度経済成長期以前の“職人の世界” で生まれた。
● 代表的な職種
- 寿司職人
- 大工
- 左官
- 料理人
- 伝統工芸(漆、染め物、木工など)
- 印刷・製本
- 自動車整備(昔の町工場)
- 鉄工・溶接
- 建築現場の職人仕事
これらの仕事には共通点がある。
● 共通点
- 作業が“目で見て理解できる”
- 工程が比較的シンプル
- 長期雇用が前提
- 師匠と弟子の関係が強い
- 「背中を見て覚える」ことが美徳とされた
つまり、
“見て盗む”が成立する条件が揃っていた時代の文化なんだ。
2. 現代の仕事と「見て覚えろ」は相性が悪い
現代の仕事は、昔とはまったく違う。
● 現代の代表的な職種
- ITエンジニア
- 事務・バックオフィス
- カスタマーサポート
- 医療・介護
- サービス業
- マーケティング
- デザイン
- 営業
- 製造(高度に機械化)
これらの仕事は、
“見ただけでは理解できない複雑さ” を持っている。
● 現代の仕事の特徴
- 情報量が多い
- 手順が複雑
- チームで動く
- 法律・ルールが多い
- 顧客対応が必要
- ITツールが必須
- スピードが速い
この環境で「見て覚えろ」は、
新人にとって負担が大きすぎる。
3. データが示す:体系的な指導のほうが習得が速い
職業訓練(apprenticeship)の研究では、
体系的な指導を導入しただけで、習得率が25% → 100%に上昇した
というデータがある。
また、
サポートが不足すると習得が進まず離脱率が上がる
という調査もある。
つまり、
“見て盗め”より“教えて育てる”ほうが、
新人ができるようになるまでの時間は何倍も短くなる。
4. 見て覚えろ文化が生む3つの問題
① 新人が萎縮する
質問すると怒られる。
確認すると嫌な顔をされる。
これでは成長どころか、ミスが増える。
② 属人化が進む
「先輩のやり方を見て覚える」
→ 先輩ごとにやり方が違う
→ 新人が混乱する
③ 再現性がない
“見て盗む”は、
「盗める人だけが育つ」という不公平な仕組み。
現代の職場では通用しない。
5. 育つ職場は“教える仕組み”を持っている
新人が育つ職場は、
「教える人のスキル」に頼らない。
仕組みで育てる。
- 手順書がある
- 期待値が明確
- 質問しやすい空気
- 段階的に任せる
- ミスを責めず、仕組みで防ぐ
- 小さな成功を拾う
こうした環境があるだけで、
新人の成長スピードは驚くほど変わる。
6. まとめ:人は環境が整えば自然と育つ
見て覚えろ文化」は、
時代背景が違うからこそ成立していた。
現代の仕事は複雑で、スピードも速い。
だからこそ、
“教える仕組み”を持つ職場が強い。
新人が育つかどうかは、
個人の能力ではなく、
環境のつくり方で決まる。
働く人が無理なく力を発揮できる職場が、
一つでも増えていくことを願っている。