「人が動きたくなる指示の出し方」

― 命令ではなく、動きやすい言葉がチームを動かす ―

職場での指示は、
「何を言うか」よりも 「どう言うか」 で結果が大きく変わる。

同じ内容でも、

  • 命令口調だと人は動かない
  • 動きやすい言葉だと人は自然と動く

これは性格の問題ではなく、
人の心理と行動の仕組みによって説明できる。

この記事では、
人が動きたくなる指示の出し方を、
心理学・行動科学・現場の実例を交えながらまとめていく。

1. 命令は「人を動かす力」が弱い

心理学者ジャック・ブレームの
**「心理的リアクタンス理論」**によると、
人は命令されると「自由を奪われた」と感じ、
反発したくなる心理が働く。

だから、
「やって」
「早く」
「なんでまだ」
といった命令は、
人を動かすどころか、動きを止めてしまう。

2. 人が動きたくなる指示は「選択肢」と「理由」がある

行動科学の研究(自己決定理論)では、
人は “自分で選んだ” と感じたときに最も動く。

だから指示には、

  • 選択肢
  • 理由
  • 目的
    を添えると効果が大きい。

● 例

×「これやっといて」
○「この作業、AとBどちらがやりやすい?」

×「急いで」
○「これを先に終わらせると、後の作業がスムーズになるよ」

×「なんでできてないの」
○「どこがやりづらかった?一緒に整理しよう」

指示が“命令”から“協力の提案”に変わる。

3. 抽象的な指示はミスを生む

ヒューマンエラー研究では、
ミスの80〜90%は個人ではなく環境要因とされている。

その代表が「曖昧な指示」。

  • ちゃんと
  • 早めに
  • しっかり
  • 普通に

これらは人によって解釈が違う。

● 具体的にするとこうなる

「今日中に」→「17時までに」
「早めに」→「次の作業が始まる前に」
「しっかり」→「この3点を満たしていればOK」

具体的な言葉は、
人の迷いを消し、動きを軽くする。

4. 相手の視点で指示を出すと動きが変わる

指示が伝わらない原因の多くは、
相手の状況を見ていないこと。

  • 今どれくらい忙しいか
  • 何を抱えているか
  • どこでつまずいているか

これを理解したうえで指示を出すと、
相手は「配慮されている」と感じ、動きやすくなる。

● 例

「今手が空いたタイミングでこれお願いできる?」
「この作業、先に説明したほうがやりやすい?」
「ここまでできていれば十分だよ」

5. 「任せる言葉」は人を動かす

人は、
信頼されると動く。

だから指示には、
“任せるニュアンス”を入れると効果が大きい。

● 例

「これお願いしてもいい?」
「あなたに任せたい」
「この部分はあなたが一番得意だから頼りたい」

任せる言葉は、
相手の自尊心を満たし、
自発的な行動を引き出す。

6. 確認のタイミングを決めると安心して動ける

認知心理学では、
人は「不確実な状態」に強いストレスを感じる。

だから最初に
「どのタイミングで確認するか」
を決めておくと、動きがスムーズになる。

● 例

「15分後に一度見せてね」
「途中で迷ったらすぐ声かけて」
「ここまでできたら一度確認しよう」

確認のタイミングは、
人の安心感をつくる。

7. マウントを取る指示は人を止める

職場によっては、
指示の中に“マウント”が混ざることがある。

  • 「普通これくらいできるよね?」
  • 「なんでこんな簡単なことができないの」
  • 「前の人はもっと早かったよ」

こうした言葉は、
人を動かすどころか、
心を止める。

社会心理学では、
マウント行動は“劣等感や不安の裏返し”とされている。

民度の低い職場では特に起きやすいが、
民度の高い職場(デパート・高級レストランなど)ではほぼ見られない。

指示は、
相手を下げるためではなく、動きやすくするためにある。

まとめ

人が動きたくなる指示は、
特別なスキルではなく 言葉選び でつくれる。

  • 命令ではなく、選択肢を渡す
  • 抽象ではなく、具体的に伝える
  • 相手の視点に立つ
  • 任せる言葉を使う
  • 確認のタイミングを決める
  • マウントを避け、尊重を前提にする
    これらが整うと、
    人は自然と動き、
    チームは自然と回り始める。
    指示は「動かすための言葉」ではなく、
    “動きやすい環境をつくる言葉”。
    働く人が無理なく力を発揮できる職場が、
    一つでも増えていくことを願っている。

参考にした主な著書

  • Edward Deci & Richard Ryan
    自己決定理論(Self-Determination Theory)
  • James Reason
    ヒューマンエラー研究
  • Daniel Kahneman
    認知負荷と意思決定の研究
  • 社会心理学における優越行動(マウント行動)の研究
  • 組織文化論(Schein, Hofstede など)